コルセットの範囲

脊椎圧迫骨折ℚ&Å  研修医編

研修医からの脊椎圧迫骨折に関する質問コーナーです。

圧迫骨折を見逃したくない。
具体的な治療は・・・。
侵襲の少ない手術とは・・・。
テリボンは効くの?

信頼できる論文と共に その臨床応用まで書きました。

医者と研修医

診断編

Question:
研修医脊椎圧迫骨折を疑う患者さんで 圧迫骨折を見逃さない様にするには どうすれば良いですか?
Answer:
医者脊椎圧迫骨折は 外傷もなく出現することもあります。
症状も、痛みの全くないものから 激しい痛みがあって動けないものまで様々です。
診察して 背骨を押さえたり(圧痛) トントンとたたいたりして(叩打痛)も痛くないこともあります。
レントゲン検査とCT検査では 共に全く異常はないが、MRI検査では 新しい圧迫骨折があることもあります。
つまり 極端な例では
いつも通りの日常生活を送っていて 背中の痛みなど全くなく レントゲンとCT検査をしても全く異常がないのに 新鮮圧迫骨折がある
という方がおられます。従って 極論を言うと MRIを撮影しないと 圧迫骨折があるのかどうかは分かりません。
しかし、来た患者さん全員にMRI検査はしません。現実的には 圧迫骨折を疑う患者さんに
レントゲン検査をする。
②レントゲン検査をして 圧迫骨折はなさそうだが、
・背中や臀部に強い痛みがある
・診察して 叩打痛がある
・骨粗しょう症がある
場合は、MRIを予約する。
③それ以外の方は
・レントゲンではわからない骨折もある事
・今後 症状が続いたり増悪すれば レントゲンやMRIをしていく事
を伝える。私は 以上のようにしています。

治療編

Question:
研修医圧迫骨折があると診断した後にコルセットを作成する場合、どのようなコルセットを作成すれば良いですか?
また、コルセットの装着期間も教えてください。

Answer:

医者

固定具の種類

装具・固定方法として 柔らかい順に、
軟性コルセットダーメンコルセット:メッシュや合皮素材を用いて作成する)
硬性コルセットモールドジャケット:プラスチック性の物だがやや弾力があり、力を入れて開けて装着して マジックテープで締める
フレームコルセット:アルミや鉄の支柱を使って型枠を作るタイプのコルセット)
ギプス(カチコチで 動かない)
があります。
尚、市販されている ゴム製のコルセットは ほとんど意味がありません。

種類 名称 作成期間 硬さ 固定性
軟性 ダーメンコルセット 3~7日 そこそこ柔らかい
硬性 モールドジャケット 3~7日 硬いが多少 しなる
硬性 フレームコルセット 3~7日 硬いが多少 しなる
ギプス ギプス 即日 硬い
どの種類を選択するかは
痛みの強さ(痛みが強いほど 硬いコルセットが望ましい)
レントゲンでのつぶれ方(つぶれ方がひどいほど 硬いコルセットが望ましい)
③骨折の部位(第11胸椎から第2腰椎はつぶれやすいので より硬いコルセットが望ましい)
骨密度(骨が弱いほど より硬いコルセットが望ましい)
活動性(よく動く予定の人ほど 硬いコルセットが望ましい)
⑥固定されるのが嫌な人(せっかく作ったのに 装着しなければ意味がないので やむなく 比較的柔らかいコルセットを作ることもある)
上記を考慮して 総合的に判断する。

 

固定する範囲

コルセットの範囲
図を見てもらいます。

第12胸椎圧迫骨折を起こした場合です。
圧迫骨折のコルセットは 背中をそらすように作成します。
後ろ側は 骨折部にかかる力が1点ある必要があります。
前側は 胸をそらすような力と、恥骨を下げるような力の2点が必要です。
現実的には 緑色の線程度の範囲が コルセットの大きさとなります。
骨折の部位や重症度によって コルセットの大きさを決めます。
大きくなりすぎると 立ち座りが大変ですし、上にずれてきたときに 顎に当たって邪魔です

装着期間

コルセットの装着期間は 目安として3か月間です。
患者さんによって 前後します。

Question:
研修医経皮的手術があると聞きましたが、どのようなものでしょうか?
Answer:
医者経皮的手術には、経皮的椎体形成術(vertebroplasty:VP)と balloon kyphoplasty(BKP)があります。
両者の目的は同じですが、手技が少し違います。
経皮的椎体形成術について書きます。
経皮的椎体形成術目的
骨粗鬆症性椎体骨折を起こした椎体を 骨セメントを注入することにより強くする

適応
保存的治療抵抗性の骨粗鬆症性椎体骨折で、椎体後壁の損傷がない症例(禁忌事項もいくつかあります。)
手技
①局所麻酔を行う。
②当該椎骨の後方から 椎弓根の部分へ針を進める。(レントゲンやCTを見ながら)
椎弓根を通過して さらに前に針先を進め、椎体まで達する
造影剤を注入し、椎体以外の部分へ造影剤が漏れないことを確認する。(この時 椎体の後方へ造影剤が漏れていれば 骨セメントの注入はダメです。椎体の後方には 大きな神経があります。その部分に骨セメントが注入されると 痛みが出現したり 神経麻痺が出現することがあります。)
⑤椎体内に 骨セメントを注入する。

論文編

Question:
研修医脊椎圧迫骨折に関する論文の内容と、それをどのように臨床に役立てるのかを教えてください。

 

Answer:

医者

論文1¹⁾
脊椎圧迫骨折の患者さんで 受傷初期にベッド上での安静期間を3週間設けた群では ベッド上での安静期間が1週間以内の群と比べて 骨癒合が遅れる傾向にある。
臨床での工夫:痛みを我慢できる範囲内で 早めに日常生活をしてもらう。ただし、過剰な運動はダメです。
論文2²⁾
脊椎圧迫骨折の患者さんで テリボンを投与した群では 骨癒合までの期間は2.8か月
ビスホスホネート製剤(ボナロン・ベネット等)を投与した群では 骨癒合までの期間は3.9か月
臨床での工夫:骨癒合しにくそうな症例では テリボンを投与する。
コルセット装着期間は 骨癒合期間を目安に考慮する。
論文3¹⁾
脊椎圧迫骨折の患者さんで 早期に治療を開始しても 第11胸椎~第2腰椎圧迫骨折は 48週間後の時点で 30%は偽関節となる
臨床での工夫:第11胸椎~第2腰椎圧迫骨折は偽関節となりやすいことを患者さんに説明する。
第11胸椎~第2腰椎圧迫骨折はテリボンを投与する。

参考文献
1)千葉一裕、辻崇:骨粗鬆症性椎体骨折に対する保存的治療 臨床雑誌整形外科67:794-799,2016
2)重信恵一、金山雅弘ほか:骨粗鬆症薬治療薬が新鮮脊椎椎体骨折患者において、疼痛や日常生活動作、QOLならびに骨代謝や骨癒合に及ぼす影響の検討 Osteoporosis Japan 22:117-121,2014