前十字靭帯断裂

GACKTが前十字靭帯断裂! 手術はしなくても良いの?

歌手・俳優・実業家 等、多くの顔を持つ超一流芸能人のGACKTさん。

身体を鍛えていることでも有名ですよね。

先日テレビでは、「左膝の前十字靭帯が断裂している」と話されていました。

そのままの状態で、体を鍛え 全力でコンサートもされています。

あくまで一般論ですが

前十字靭帯断裂で手術をせずにそのままスポーツを続けると、膝の半月板損傷や軟骨損傷が起こり易く、変形性膝関節症にもなり易いです。

GACKTさんの状況

2016年8月 左膝前十字靭帯断裂

2017年3月 公式ブログで本人が報告

膝専門の医師の診察を受けて診断された

この段階での軟骨損傷はなかった

2020年1月 テレビで、手術はしていないことを話されていました

 

前十字靭帯断裂について 整形外科専門医の視点から解説します。

前十字靭帯断裂で手術をしなかったらどうなるの?

前十字靭帯断裂⇒半月板損傷⇒変形性膝関節症 になりやすい

前十字靭帯断裂になると、膝が”グラグラした”状態になります。

その様な”グラグラした”状態のまま 歩いたり走ったりしていると、膝のクッション材である半月板や、骨の表面の軟骨を損傷しやすいです。

特に スポーツをする人は、極限の状態で体を酷使するため、半月板損傷や軟骨損傷を引き起こしやすいです。

どんな人が手術を受けるの?

18-35歳の活動性の高い人

非常に幅広い年齢層で 前十字靭帯再建術が行われています。

高校生から還暦を過ぎた方まで 手術をする場合があります。

最終的には、主治医の先生と相談しながら決めていきます。

主治医が目安にすることとしては

・身長の伸びが無くなっているのか(成長線があると、手術によって成長に影響が出るため)

・今後 激しい運動をするのか

・太っているか(将来の変形性膝関節症になるリスクを減らす)

・リハビリをしっかりと出来そうか

等の要素を総合的に考え 判断します。

手術をするならどのくらいの時期が良いの?

3~6か月以内に手術をする方が良いです

仕事や学校行事で 入院できない時期もありますよね。

前十字靭帯断裂が分かったら、どのくらい急いで手術を考えるのでしょうか。

前十字靭帯損傷自体は 命に係わる病気ではないので、多少の猶予はあります。

専門科たちが推奨するのは、『3~6か月以内の手術』です。

その理由は、手術時期が遅すぎると半月板損傷や関節軟骨損傷の危険性が高まるためです。

前十字靭帯断裂:手術の方法は?

骨付き膝蓋腱法 又は 膝屈筋腱法

前十字靭帯断裂の手術はにはどの様なものがあるのでしょうか?

”切れた靭帯を縫い合わせる”・・・という方法では上手くいきません。

違う場所から強い組織を持ってきて、新たに前十字靭帯の代わりとして働いてもらうのです。

その方法が、

①骨付き膝蓋腱法
又は
②膝屈筋腱法
なのです。

①も②も 膝にある組織です。

・組織を採って
・加工して
・関節鏡を使って関節の中を見て
・組織を埋め込む穴を開けて
・組織を通して
・張力を調整して
・固定する

といった手順で進めていきます。

①骨付き膝蓋腱法と ②膝屈筋腱法とは、長年 どちらの治療法が良いのか検討されています。

結論としては、『甲乙つけがたく、どちらも良い方法である』というものです。

前十字靭帯再建術後の再断裂は?

再断裂の可能性が2~10%あります(術後5年間)

手術が上手くいって、スポーツを再開します。

しかし、再び前十字靭帯断裂となることもあります。

その割合は、術後5年間で2~10%です。¹⁾

術後3年の追跡期間では、同側・体側を合わせた損傷率は
・20歳以下が29%
・20歳以上が8%
でした。¹⁾

スポーツ復帰はいつ頃から?

6~9か月後

『できるだけ、次の大会に間に合わせたい・・・』

切実に思います。

しかし、スポーツが可能となるまで 半年以上かかります。

医師や施設により、スポーツ復帰の時期には幅があります。

・・・なんとも あいまいですよね。

実際には、経験的に6か月としている医師が多いです。

手術をして9か月以降のスポーツ復帰なら、再断裂が減少するという報告もあります。²⁾

 

豆知識

再建した前十字靭帯が、組織学的に治ってくるのは
・初期治癒:6か月
・再構築が盛ん:12か月
・成熟:9~48か月
これくらいかかると言われています。³ ⁴⁾

完全に成熟(組織学的に治る)を待っていたら4年間かかります。

4年間待っていたら・・・スポーツ復帰は出来ないですよね。

 

GACKTさんへ

GACKTさんがもしこの記事を読まれたら、前十字靭帯の再建手術をされる気持ちになられたでしょうか?

10年後・20年後も活躍されるには、体の手入れも必要です。

私個人の意見としては、「早めに手術をされる方が良いのにな・・」と思っています。

手術の如何にかかわらず 今後も活躍してくださいね。

 

参考文献)

1) Webster KE,et al:Am J Sports Med 2014;42:641.

2) Grindem H,et al:Br J Sports Med 2016;50:804.

3) Peuzenberger L, et al:Arthroscopy 2013;42:541.

4) Claes S, et al:Am J Sports Med 2011;39:2476.

この記事は、『前十字靭帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019』を参考に書きました。